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アルマジロとFitzPeaks NaIによるベクレル定量超入門(もどき)

本記事ではアルマジロ(CsIシンチレーター)とFitzPeaksNaIについて取り扱いますが時間の無駄を省くため、最初に重要な点を述べます。

・FitzPeaksNaIはWindows用プログラムですがWindows7(64BitVersion)では動作しませんでした。記事の内容はWindows7(32BitVersion)によるもので、WindowsXPでの動作も確認しています。(Windows8は未確認)
・この記事はアルマジロをターゲットとしていますがチャッピー検出器や他のシンチレーターでも有効です。
・中、高濃度の試料中のセシウムを「ザックリ」定量することを目的としていますので「セシウムしか測定しないのはけしからん、アルマジロでプル系、ウラン系を調べたい」「1ベクレル以下まで検出したい」とチャレンジされているエキスパートの方には無益な内容です。

1)「ベクレル定量」のおさらい
試料に含まれるセシウムのベクレル量を求めるには核種ごとのピーク面積(計数率)をベクレル量に換算する必要がありますが、アルマジロやチャッピーの様に検出器が単体で販売されている場合、ユーザーが容器ごとに換算係数を自分で実測し決めなければなりません。

γ線測定によるCsの定量入門

「ベクモニ」は定量を目指す個人測定者の方が良く利用しているソフトで、多くのベクレルモニターと同様に上記の和田先生の資料にある「ROI(関心領域)」中のγ線の計数率からベクレル量を求めていますが、NaI(CsI)検出器を使用する場合に以下の問題は避ける事ができません。

・分解能が低いので662keV のCs137を605keVのCs134あるいは609keVのBi214と分離して単独で計数できない。
・K40(カリウム)を含む試料ではコンプトン効果によりセシウム領域(600~800keV付近)の計数が嵩上げされる。

NaI(Tl)シンチレーターとHPGeのスペクトル比較(SEIKO-EG&G HP より)
LaBr3_201403071644033f4.jpg  
アイソトープ協会の頒布しているCs137、134の単独体積線源を使えば他核種の影響を受けずに計数率の校正ができますが、高価で個人で入手するのは困難なため通常はHPGeなどで定量しベクレル量が既知の環境試料を使用するのでハードルが高くなります。

「ベクモニ」では605keVのCs134と662keV のCs137の計数をまとめて勘定し796keVのCs134の計数(に係数をかけた値)を減算する、K40の計数からセシウム領域(600~800keV付近)での嵩上げ分を推定してセシウムから減算するなど結構面倒な処理を行っていますが、137,134,K40の計数が循環的な参照関係にあるため実測値から換算係数を得るのは入門者の「前歯を折る」ような難しさがあります。

下図はその辺りを手抜きして簡略化できないかと、EMF211で測定した高カリウム試料のスペクトル画像にお絵かきソフトで「えいっ」と目見当でピーク形状(面積)を手書きしたものです。662keVのCs137のピークは高エネルギー側のスロープを先に引き軸対称(二等辺三角形)と仮定し、コンプトン散乱の連続スペクトル(赤線)で足切りして正味のピーク面積?を青色で表示してあります。
K40andCs.jpg
「あまりに適当すぎる」との厳しいご意見もあると思いますが、世間にはピークがないのにヒゲ1本で数値を出したり、同位体比が異常(Cs134がCs137の2、3倍)なデーターでも平気で「検出」してしまうおちゃめなベクレルモニターもありますが、「お絵かき法」では
・そもそもピークがなかったり、計数が少なくギザギザだとマトモに線が引けない
・多少温度ドリフトしても人間が目で追従
など「大間違いはしない」という点では決してバカにしたものではありません。

2)FitzPeaks NaI (関数適合法)とは

前記の「お絵かき法」は誤差(不確かさ)の様な洒落たものは出ませんが「もう少しもっともらしく(数学的な方法で)線が引けないか?」という考えるのが人情です。最小自乗法は「測定点との誤差(の絶対値)の合計が最小になるように線を引く」方法の一つと言えますが、筆者の能力とググれば良サイトが沢山あるので説明は省略します。
kaiki.jpg
前振りが長くなりましたがFitzPeaks NaIはJF Computing Servicesが無償で配布している関数適合法によるγ線スペクトロメトリー解析プログラムです。
FitzPeaks Gamma Analysis and Calibration Software

「FitzPeaks」はHPGeまたはCdTeなど高分解能検出器向けなので必ずHPの最下段にある
”There is also a version of the software available that is optimised for low resolution detectors such as Sodium Iodide. An evaluation copy of FitzPeaks NaI can be downloaded by clicking here ” のリンクからFitzPeaks NaIを取得します。

保存したinstall_nai.exeをダブルクリックするとc:\Program Files\FitzPeaks NaIにインストールされます。(管理者権限が必要)

FitzPeaks NaIについてはBasamaさんのブログ FitzPeaks NaIを用いたスペクトル分析 から
PRAおよびFitzPeaks NaIを用いたγスペクトル分析法

をダウンロードして読み込んでおく事が必須です。本記事では上記PDFと重複する内容は省略し補足、追加事項についてのみ取り扱っています。

3)FitzPeaks NaIへのデーターの取り込み
basamaさんのドキュメントではスペクトルデータ-の採取にはPRAを使用されていますが、ベクモニやThereminoMCAの吐くCSVファイルやTXTファイルも読み込むことができます。
下左図はPRAが出力するTXTファイル、下右図はベクモニの出力するCSVファイルでともに「メモ帳」やExcelで開くことができます。
PRAのTextファイル                ベクモニのCSVファイル
SPRATXT.jpgSBqMoniTXT.jpg

ベクモニのCSVファイルはHEADERがなく、1行目からデーターになっているのとデリミタ(区切り文字)がカンマである他は「一行がエネルギー/カウント数」の同一フォーマットです。
ベクモニのデーターをFitzPeaksNaI読み込ませるには「ファイルのプロパティ」から拡張子を*.csvから*.txtに変更し
FitzPeaksNaIの「Setup」「General」メニューでファイル形式とHeaderLineを確認(変更)します。(ファイルの先頭に空の改行を入れてもよいでしょう)
Ft13.jpg
ThereminoMCAの出力ファイルは下図の様にHeaderが10数行あるので同じように調整します。(1行を残しHeader自体を削ってもOK)
SThereminoTXT.jpg

PeakSearch」や「PeakFitting」の中で処理する上限チャンネルを指定する項目がありますので少なくともK40(1460.8keV)のピークが収まるように設定する必要があります。(元々分解能の悪いNaIやCsIで不必要にChannel数を増やしてもPCのリソースを消費するだけで大した意味はないかもしれません)
Ft15.jpg Ft14_201402211330252e4.jpg

実はFitzPeaksNaIには「Setup」→「MCAsetup」でMCAの出力を直接読み込む機能があるので、USBCodec経由でアルマジロの信号を入力してみましたが下図の様にスペクトルらしきもの?は描画しますが、パラメーターを変えてもCsの光電ピークが現れません。たぶんハードウエアMCA(PZ回路やBLR回路)でShape(整形)された信号しか受け付けないのかもしれません。(「そんなことはない、ちゃんとできる」など情報をお持ちの方は伏してコメントをお願いいたします)
FpMCA.jpg

basamaさんのドキュメントに従って前段取りが終わったらベクモニ+アルマジロで採取したCs137標準線源とK40のスペクトルデーター(下図)を読み込んでみます。
Bq_Cs137_K40.png

Analyse」→「PeakSearch」 をクリックすると複数のピークが検出されますがドキュメントにあるようにエネルギー校正に不要なピークは削除しCs137とK40のピークだけ残します。
  Ft02.jpg

Calibrate」→「Energy」 をクリック 表示されるピークのエネルギーが適切なら左最下段の「OK」をクリックします。
Ft04.jpg  

次に「Calibrate」→「PeakShape」をクリックし左側フロートメニューの「Perform  Energy Tailing Calibration」にチェックを入れるとFittingを始めます。
Ft07.jpg

Fittingが完了すると下欄にサマリが表示されます。下図の青枠にはCs137のピーク計数と誤差を表示しています。Fitting結果は右欄のピーク一覧から該当するエネルギーをダブルクリックするか上欄の「PulseShape」アイコン(赤枠)をクリックすると繰り返して見ることが出来ます。
Ft06.jpg

ここまで来たら校正結果を「File」→「Save Calibration」から「検出器校正データー」として一旦保存します。これ以降は「Setup」→「General」から検出器毎の校正データーを呼び出す事が可能になります。(ただしEnergy/channelなど同一条件で採取された一意性のあるデーターに限ります。)
Ft08.jpg

保存された校正データーを使用してアルマジロ+ベクモニで採取した環境試料(汚染土壌)のスペクトルを読み込んでみます。
(下図は500~700keV 付近 右端の山がCs137のフィッティング結果)
Ft09.jpg

同じくCs134(796keV)のフィッティング結果
Ft10.jpg

下欄に表示されているAreaの数値は計数ベースなので他のデーターと比較し放射能濃度と関連付けるためにはLiveTimeで除算して計数率ベースに直しておく必要があります。

下図は西日本で採取されたCs137のみ検出(約300Bq/kg)された特殊な環境資料をアルマジロ+ThereminoMCAで測定したスペクトルデーターをFitzPeaksNaIでFittingした例です。(keV/chの対応がベクモニと異なるので校正データーは検出器ナンバーを変えて保存してあります)
Th02.jpg

下図はThereminoMCAでのオリジナル表示ですが「最小エネルギー」で指定した低エネルギー側は画面上表示されませんが、TXTデーターには保存されているようです。なお上図での100keV以下のピークは受光素子(P.D)のノイズです。
SThereminoMCA_2013_11_01_22_05_47.jpg

本来のFitzPeaksNaI使用方法ではこの後にBackGroundデーターの登録、計数率の校正に進み最終的にはレポートを出力する事が出来ますがBasamaさんのドキュメントに詳しいので本記事では省略します。

ただ特にこだわりのある方は除き、目的が個人測定でバックグランドにコンタミによるピークがなければ省略しても良い気がします。むしろ「一点校正」より放射能濃度が既知な複数の試料を繰り返し測定して妥当性を検証してみることが重要だと思います。(暴言多謝)

こうしたK40を含む循環的な参照関係を使わず直接137,134のピーク計数を求める方法にはJAEAによる簡易法があります。

NaI(Tl)スペクトロメーターでセシウム134と137を個別に定量する簡便な手法を開発(お知らせ)

この方法についても後日実データーで確認してみたいと思います。(Excelのキーマクロで実現できそう?)

なおご質問、ご指摘事項などはコメント欄かTwitterでメンションしていただければ能力の許す範囲で対応いたします。(個別のDMには対応できませんのでご了解ください。)

〈関連情報〉
日光の放射能 測定方法2
Pico Tech - Peak Fit With R
Pico Tech - Peak Fit With Octave
NaIのスペクトルからCs134,137のγ線強度をpeak fitで求める

スペクトルのフィット1

追記
1.basamaさんのドキュメントにあるカスタムファイル *.enc、*.shpファイルをc:\Program Files\FitzPeaks NaI 配下に置くには管理者権限が必要です。XPに比べてWindows7はその辺がうるさくなって使い勝手が悪いのでスペクトルデータの置き場所は Setup→Directories→Other Spectra Directory で C:\Users\<UserName>\Documents\Spectra などにしておくのが良いかもしれません。

2.FitzPeaksNaI付属のhelpファイルは古い形式でコンパイルされたバイナリファイルなので参照するにはWindowsのversionに対応したWinHlp.exeが必要です。 http://support.microsoft.com/kb/917607/ja

3..basamaさんのドキュメントのp.14で指定する「PeakSearch Library」は前ページで作成した「Cs_k.lib」が正しいと思います。同様にドキュメントに明記されていませんが「Setup」→「Quantitative」で指定する 「Analysis Lirary」も「Cs_k.lib」を指定しています。


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